京都で最もにぎやかなエリアから、ほんのちょっと外れたところ。国際漫画ミュージアムの近くに「karasumaoike UI」というビストロがあります。
京町家をシックに改装された空間が居心地よく、料理やお酒も美味しい。いつ行っても、お尻に根が生えてしまうお店です。
そんなUIさんがオープンしたのは2019年3月29日で、そろそろ初めての誕生日を迎えます。この1年間どうだったか、オーナー・あきひこさんにお話しをうかがってきました。
ビストロ karasumaoike UI
あきひこさん:ボク、めっちゃ日本酒アンチやったんですよ。でもあることがキッカケで日本酒が好きになり、ワインも大好きなので。そういう美味しいお酒があるということを、ぜひ知ってもらいたいと思ったんです。
「洋食とワイン」のお店は、よくありますよね。でも「洋食とワイン」「洋食と日本酒」両方を推してるお店は少ない。それをカジュアルに、料理と日本酒とワインを楽しんでもらいたいという気持ちで1年前にお店をオープンしました。
そんなにガチャガチャしてない所にある京町家を、いろいろご縁が重なって借りられたのも大きいです。落ち着いた所でお店やりたくてね、控えめな性格なので (笑)。
――店名の「UI」はどうやって決めたんですか?
あきひこさん:ロゴから入りました。ネーミングが苦手で悩んでたんですけど、仙禽 の「羽水 UI」という日本酒を見て「縦に並べたらワイングラスになるやん!」って思ったんです。
ワインと日本酒を扱い、日本酒もワイングラスで出そうって決めてたんで「これ、いいんちゃうか」と。日本酒からヒントもらえたんで後で語れるな、と (笑)。
それでお店の改装をしてくれてる建築デザイナーにロゴを作ってもらって、そのまま店舗名も「karasumaoike UI」にしました。
短くてスパッとわかりやすい。でも、他にあまりない店名で気に入ってます。サルティンなんちゃらとかトラットリアなんちゃらだと、ちょっと硬いイメージになるでしょ。
――どんなコンセプトで料理を出されてるんですか?
あきひこさん:UIは、ビストロ(カジュアルに料理とワインが楽しめる小レストラン)です。「フレンチ」とか「イタリアン」みたいなこだわりは、ないです。
洋食ですけど和のテイストも入れたり、素材の味を引き出すような「シンプルな料理」を目指してます。ビストロの王道を行きながらも、ちょっとクッと曲がった感じですね (笑)。
でも、シンプルな料理ってごまかせないんですよ。だから原価率高くなっても材料にこだわったり、グラタンなら丁寧に裏ごしするとか、目に見えない手間暇も惜しまないようにしてます。
「フレンチみたいに華やかじゃないけど、なんかこれ美味しい」とか。「着飾ってないけど、これいいやん」って思ってもらいたいなぁと、精進してます。
鴨のベリーソース
あきひこさん:ボクでは足元にも及ばへんけど「Le Mange-Tout」というお店の谷昇シェフのことを尊敬していて、著書も拝読してます。
高級フレンチなんですけど、着飾った感じではなくて。すごく良い素材を使ってるけど、シンプルに訴えかける料理を作ってはって。畑は違えど谷さんの料理が好きで、影響受けてます。
それから「コンセプト」って言えるかわからないけど、楽しんでもらえることを一番大事にしたいと思ってます。
――日本酒はどんな銘柄を置いてるんですか?
あきひこさん:うちで出す魚料理や肉料理に合わせて置いてるのとか、自分が大好きで置いてるのがあります。魚料理が多いので、魚介系に合う日本酒が多いかな。
蒼空・英勲・澤屋まつもと・玉川なんかの京都のお酒は、よくご注文いただくので置いてます。わりと観光客のお客様が多いのかな?滋賀の三連星なんかも出ます。
個人的に「新政 No.6」が大好きで、絶対メニューに入れようと思ってました。
「新政 No.6」をご注文いただいたお客様が「美味しい」と言ってくれて。「全然、酒屋に売ってへん」ってまた来てくれはったり。そういうの嬉しいですね。
あきひこさん:お店始めてから、どんどん不老泉が好きになってきて。美味しいよね~、不老泉 (笑)。
うちのお酒の中では、一番個性的なテイストの日本酒です。肉料理を注文してくださったお客様にお勧めすると、好評です。
お店に余裕と時間ができたら、上原酒造さん(不老泉の酒蔵)に行きたいですね。まだ飲めてない他の「不老泉」もあるので、制覇したいです。
――酒器は、ワイングラスだけですか?
あきひこさん:はい、リーデルのワイングラスだけです。高いんですけど、飲み口が全然違いますね。やっぱり、良いグラスで飲むと味わいが全然違います。
リーデル以外に2つぐらい使ってみたいグラスがあるんですけど「さすがにこれはちょっと無理」っていう値段でした (笑)。それで、このリーデルだけを使ってます。
冬場にもっと「燗酒欲しい」って言われるかと心配してたんですけど、全然なくて安心してます。ロゴもワイングラスだし、このままワイングラスだけでいく予定です。
――どんなお客様が多いですか?
あきひこさん:女子会ですね。30代から50代ぐらいの女性が、使ってくださってます。家族連れやビジネスマンも来られますが、多くはないです。
日本酒とワインのご注文比率は「4:6」から「3:7」ぐらいかな。お店の雰囲気がワインっぽいから、ワインを飲みに来られるお客様の方が多いですね。
独立前から一日本酒ファンとしてTwitterをやってるので、フォローしてくださってる方が飲みに来てくださることもあります。最近、少ないけど (笑)。
なぜ karasumaoike UI を始めたか、そしてこれから
――そもそも、どんな経緯で飲食店を開店しようと思われたんですか?
あきひこさん:自分でお店を出そうと思ったのは25歳ぐらいのときです。それで、35歳ぐらいで実現しようと目標を立てました。
そこから逆算して、どんなことするべきか考えながら仕事を選んでました。厨房もやったし、ホテルのホールもやったし。
でも飲食業界はきつい仕事なので、結婚したときに妻と話しあって「普通の時間に帰れて、普通に生活できる仕事」に就くことになり、一度飲食を離れて営業マンをやりました。
でも、やっぱり「自分のやりたいことをやって進んでいきたい」という気持ちが強くて、飲食に戻りました。
パテ・ド・カンパーニュ
あきひこさん:気がづけば38歳。どんどん歳を取っていくんですよね。だんだんしんどくなるし、踏ん切りがつかなくなる。
「ここで動かないと、もう動けへんのちゃうかな」「自分が腰を上げるタイミングは今しかない」そう思って動きました。
飲食業界って「独立したい」と口にしてても独立できない人、山ほどいるんです。同じお店に長くいすぎて、しがらみで辞められなくなったりとか。
ボクがお店を出せたのは、遅れたけど「35歳ぐらいで独立」という目標があったから。飲食の仕事を続けられたのも、目標があったからですね。
――1年間、お店を経営してみてどうでしたか?
あきひこさん:まぁ~大変でしたね。何とかやってこられた、っていう感じの1年でした。
自分で経営して軌道に乗せていくのが、難しい。失敗ばかり。これは上手いこといった、っていうのが何もない (笑)。
もっとこうすればよかったと反省することばかりで、落ち込むこともあります。でも引きずってもしょうがないし、次どうしたらいいかって考えてプラスに変えていくだけです。
帆立の西京味噌漬け
あきひこさん:最初から完璧なお店はないし。省みるのは大事だけど、振り返り過ぎるのはダメ。あんまり頑張り過ぎるのも、ダメ。
去年の末にとうとう体調崩しちゃって、それがお客様に伝わっちゃうんですよね。だから、頑張り過ぎて余力が無くなるのは、かえって良くないと気づきました。
社員を入れることも、考えたいですね。まだ繁盛してるとは言えないし大変だけど、そこは挑戦していかないと未来がないかなって思ってます。
――これから、どんなお店を目指したいですか?
あきひこさん:にぎわって欲しい (笑)。お酒が好きな人であふれるお店にできたら、一番いい。一番嬉しい。そうなってきたら「お店を出してよかった」って感じられるかなって思います。
それから、もっと日本酒好きの方にも来ていただきたいですね。ワインのご注文が多い中で日本酒を頼むお客様が来ると、すごく嬉しい。
うちは外からパッと見て「日本酒を置いてるお店」って感じがしないので、地道に浸透させていきます。日本酒とワインの注文割合が五分五分ぐらいになったら、おもしろそうでしょ。
美味しい日本酒に出会わなければ「karasumaoike UI」はなかった
――あきひこさんにとって「日本酒」とは何ですか?
あきひこさん:日本酒がなかったら「karasumaoike UI」はなかったですね。こういうスタンスのお店はやってないし、名前もぜんぜん違ったと思います。
お酒をウリにしてなかったかもしれないし、どういうお店にしてたか想像がつかないですね。もしかしたら、独立してないかもしれないです。
日本酒があったから、こういうお店ができた。自分にとっては大きな出会いでした。
渡り蟹のパスタ
あきひこさん:もともと日本酒のことメッチャ嫌いやったんです。吐いた記憶しかないし。「え?日本酒?けっこうです」みたいな感じでした。
でもある日「もしかしたら、飲まず嫌いしてるかもしれん」と思い、試してみたくなって。それで買ったのが萬乗醸造さんの「醸し人九平次 純米大吟醸 human」です。
どうせ試すなら良いのを飲んでみて、それで美味しいと感じなければもういいやと思ったんですけど、大当たり。クオリティも複雑性も衝撃的で、そこから沼ですね (笑)。
それで「日本酒のこと、ちゃんと勉強しよう」と考え、いろいろ共有できる仲間が欲しいと思って始めたのがTwitter(@AKIHIKOSAKE)です。
飲食店って、お酒がひとつのテーマなんです。お店の売り上げに大きく関わるので。だから、ちゃんと勉強しないといけません。
昔の自分からしたら考えられないですけど、美味しい日本酒に出会えて本当によかったと思いますね。
聞き手、文、写真:ダット
店舗情報
店名 | karasumaoike UI(からすまおいけ うぃ) |
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所在地 | 京都市中京区押小路通両替町西入る金吹町459 |
予約方法 | 電話、ホームページ |
電話番号 | 075-204-8428 |
公式サイト | https://karasumaoikeui.owst.jp |
営業時間 |
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定休日 | 不定休 |
ご予算 | 平均5,000円弱 |
コース |
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支払方法 |
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喫煙 | 全席禁煙、坪庭に喫煙スペースあり |