まいまい京都さん主催の「京都市産業技術研究所ツアー」に参加してきました。
産技研さんでは、京都市の産業や中小企業をフォローする研究をされてます。
で、バイオチームが「京の琴」や「京の華」など清酒酵母の開発をやってるんです。
今回は、その現場を見せてもらえるという日本酒好き垂涎(すいぜん)のツアー。
なんというか、ひと言でいうと「終始ワクワクするツアー」でした。
ではさっそくレポしますね。
京都市産業技術研究所「清酒酵母」開発現場の見学レポ
まいまい京都さんのツアーはすごい人気で、大半は抽選になります。
今回も定員オーバーで抽選になり、残念ながら補欠当選でした。
こんな貴重なツアー、絶対だれもキャンセルせーへんやん!!
無理やん!!
思わず、ガッツポーズしてもた。
「まいまい京都って?」という方は、こちらをどうぞ。
ということで、ありがたいことに見学できましたのでレポします。
京の琴?京の華?まずは清酒酵母の座学から
今回のツアーは「京都独自の酵母」について学べます。
流れは、以下のとおり。
- 酵母について座学
- 研究室見学
- 酵母当てきき酒クイズ
まずは、今回のガイドをしてくださる廣岡(ひろおか)さんの自己紹介。
それと、酵母について簡単な予備知識を教えていただくところからスタートです。
すべて、初心者でもわかりやすい内容でした。
廣岡さんは、もともと農学部で土壌学を研究されてたそうです。
ちょうど就職難の時代で勤め先が決まらず、拾ってもらえたのが産技研だったんだとか。
なので、お酒や酵母に思い入れがあったわけではないそうです。
「20年続けられてるのは、それが逆によかったかも?」とおっしゃてました。
ありがとう、就職氷河期。
先述のとおり、産技研さんは物づくりをしてる企業(特に中小)の支援事業をしてます。
で、産技研さんには京都の産業(窯業とか色染とか)を支える8つのチームがあるんです。
そのうちバイオ系チームが、中小の酒蔵といっしょに酵母を開発してるそうです。
開発・培養した酵母は、京都市内の酒蔵に1本650円(京都府下は750円)で販売されてます。
市の事業なので「儲けは無いけど損もない程度」とのこと。
さて、つづいて今回の主役「酵母」の話です。
ご存知のとおり、まず麹(こうじ)が米のデンプンをバラバラにします。(糖化)
そうして作られたブドウ糖を、酵母が食べてアルコールに変えます。(発酵)
清酒の素になる「醪(もろみ)」の中では、この糖化と発酵が同時に起こってます。
これは「並行複発酵」と呼ばれ、清酒造りの特徴的技術となってます。
でもそのおかげで、より高アルコールにできるんですって。
さて、酵母といえば日本醸造協会が頒布してる「きょうかい酵母」が有名です。
6号、7号、9号、10号、11号、18号あたりがよく使われてるそうですね。
で、京都市産業技術研究所でも昭和30年代から酵母を販売し始めたそうです。
じつは酵母も生モノで、時間とともに傷んでくるそうです。
そうなると「使う現場の近くで造った方がいい」という意見が出てくるんですね。
なので当時は「良い酒」というより「ちゃんとした酒」を造る目的で販売してたそうです。
ポイント
なんと、高度成長期ごろの産技研の研究費は酵母販売の収益でまかなえたんだとか!
ちなみに、事業開始時の酵母ラインナップはこんな感じだったそうです。
- 工試1号(6号系)
- 工試2号(7号系)
- 工試3号(8号系)
今は、お酒消費のピークを過ぎ販売数が激減。嗜好も変わってきてます。
酒造会社からの要望も「安定醸造」から「高付加価値酵母」に変わってるそうです。
そんな中で「京都独自の酵母を造ろう」という流れになったんですね。
ポイント
現在の酵母ラインナップは、こんな感じとのことです。
- 工試1号
- 工試2号
- 工試2号(泡なし)
- 221号(京の琴)
- 京の華
- 京の咲(さく)
- 京の珀(はく)
「京の○○」シリーズが、高付加価値酵母になります。
第1弾「京の琴」は、廣岡さんの先々代・筒井氏が佐々木酒造さんと共同開発されました。
なので、産技研では「221号」と呼ばれてるそうです。
その呼称、酵母に付けてええの?
ちなみに、5~7の3つの酵母は廣岡さんが中心となって開発されました。
じつは、廣岡さんはカプロン酸エチルの(リンゴに似た)香りが苦手なんですって。
なので酢酸イソアミルの(バナナに似た)香りがするお酒を造りたかった、と。
廣岡さんいわく「自分が好きなお酒が造れる(酵母を開発できる)のが、特権」とのこと。
それで「京の華」ができたという。しかも、名前の由来は「京のバナナ」という。
「特権」も素敵すぎて、個人的に羨望しか感じません♥
・
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すごい失礼なこと言うた感じで終わってしもてるやん!
すみません、失礼しました。
さて「京の○○」シリーズの特徴ですが。
ちょっと、表にしておきましょう。
京の琴 |
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---|---|
京の華 |
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京の咲 |
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京の珀 |
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さて、こういう高付加価値の酵母はどうやって開発するんでしょうか?
酵母は、同じものがクローンとして増えます。だから、多様性が低い。
それではまずいということで、1万個に1個ぐらい変ったものが生まれるんです。
で、その変異酵母でお酒を造ると香りが高いお酒になったりするわけです。
そういうのを選択して培養するんですね。
でも、そんな変異を待つのは大変。
そこで、たとえば「香りが高くなる酵母しか生き残れない条件」を考えるんです。
つまり「香りが高くなる酵母」以外を殺すということ。
酵母が選択的に生えてくる培養条件を開発すれば、1万個培養しなくてよくなるんですね。
ちなみに、酵母を開発するには10年かかるそうです。
だから、ずっと先のトレンドまで予測して開発することが大切なんです。
それにしても、開発者の方から生の話が聞けるってすごい楽しいですね。
開発話や裏話、どれもおもしろかったです。
時間が許すなら、もっと聞いてたかった!
でも、そんなわけにもいきません。
ということでお次は、これまた楽しそうな研究室の見学へ向かいます。
京都市産業技術研究所の清酒酵母開発ラボ見学
座学のあとは、酵母開発の現場へ。
研究室の中に入ることはできなかったけど、廊下からガラスドア越しに中が見られました。
まずは、試験醸造する部屋。
ガラス扉に「709 醸造・食品試験室」と書いてあります。
蔵の設備と、ずいぶん違いますね。
醪の温度管理ができる機械や、麹を造る機械がありました。
つづいて、培養や植菌をおこなう部屋。
一番大事な部屋で、部外者は入れません。
大神神社(おおみわじんじゃ)の絵馬やお札、杉玉が飾られてて印象的。
研究室だけ見てると無機質ですが、これがあると「生物を扱ってる」って感じしますね。
ちなみに、大神神社は松尾大社や梅宮大社とならぶ「日本三大酒神神社」のひとつ。
社格や由緒でいうと「大神神社 ← 梅宮大社 ← 松尾大社」になるそうです。
いわば、酒神の最長老様ですね。
- 大神神社とは?
- 奈良県桜井市三輪にある神社。主祭神・大物主大神(おおものぬしのおおかみ)は、醸造の神として篤い信仰を集めている。
- 境内にある活日神社に、高橋活日命(たかはしいくひのみこと)が杜氏の祖神としてまつられている。
さて、この部屋には冷蔵庫と冷凍庫があります。
冷凍庫はディープフリーザーと呼ばれ、庫内はマイナス80度になってます。
酵母はスラントと呼ばれる試験管内の寒天で培養され、冷蔵庫に保管されます。
で、およそ半年に1回、植え継がれてるそうです。
ポイント
下の写真で廣岡さんが持ってる試験管がスラントで、寒天が斜めに固まってます。
こうすることで表面積が広がり、かつ雑菌の混入を減らしやすいという特徴があります。
酵母の培養は、冬の間にバイトさんに来てもらってやってるそうです。
(年間1000本ぐらい300mlの瓶を洗い、麹汁培地を詰めて殺菌し、酵母を植えて培養する)
「いつも、この部屋に醸造会社さんが酵母を取りに来てるんだ」と思うとワクワクします。
日本酒の理解が深まる、いいものを見せていただきました。
京の琴・京の華・京の咲・京の珀、きき酒ゲーム
最後は、みんなできき酒ゲームをしました。
その前に、まずは清酒の代表的な香りを再確認。
フラスコに入った以下の3つの液体のにおいを、順番にチェックしていきます。
- 高級アルコール(マジックペンのような香り)
- 酢酸イソアミル(バナナのような香り)
- カプロン酸エチル(リンゴのような香り)
フラスコは匂いを拾いにくい・・・。
むつかしい・・・。
高級アルコール(イソアミルアルコール)は「言われてみればマジックかな?」って感じ?
酢酸イソアミルはバナナケーキ。カプロン酸エチルは、リンゴのような洋ナシのような?
いっぽう、ビーカー入りのものはかなり香りが立ってます。
「なるほど!これが酢イソで、これがカプエチの香りなのね」ってよくわかりました。
とくに酢酸イソアミルの香りは、鼻にこびりついて残るぐらいすごい。
しばらく、なんの匂いをかいでも「バナナ」でした。
こういう寸胴の形でも、匂いがよくわかるんですね。
利き猪口の形もけっこう合理的なんだな、なーんて思ってみたり。
こちらは、酒蔵さんに分譲される300ml瓶入りの酵母。
匂いはするけど、ビーカーほどよくわかりません。
こちらは、寒天で培養された酵母です。
匂いは、甘く香ばしいです。
本みりんみたい。
さて、ウォーミングアップ終了。
いよいよ、問題のお酒が並びます。
4杯のお酒が、それぞれどの京都独自酵母を使ってるか当てます。
学んだことや体験したことをフル活用しても、楽勝という感じがしない。
おそるおそる、回答欄に「味の特徴」や「香りの特徴」と「予想した酵母」を書きます。
ボクの結果は・・・4問中1問だけ正解。
(´▽`) '`,、'`,、
当たったのは、コハク酸比率が高い「京の珀」を使った「英勲 本醸造」だけでした。
これは、カンタン。もう「今すぐ燗にして!」って感じでしたよ。
香りの評価は、鼻もいで取ろうかと思うぐらい壊滅的でした。
せめてもの救いは、全問正解者が少なかったこと・・・ぐらいですかね。
いちおう、きき酒のラインナップを表にしておきますね。
京の琴 | 古都 純米吟醸原酒(佐々木酒造) |
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京の華 | 大阪市立大学オリジナル純米吟醸酒 月の桂(増田德兵衞商店) |
京の咲 | 神聖 純米吟醸 祝 無濾過生原酒(山本本家) |
京の珀 | 英勲 本醸造(齊藤酒造) |
なにげに「京の華」のお酒と「京の咲」のお酒が、うちにあるんですよね。
これは「京の琴」と「京の珀」のお酒を買ってきて、修行&リベンジだな。
うむ。京都独自酵母を使った日本酒の飲み比べ、おもしろそう。
京都市産業技術研究所って何してるところ?
最後に、京都市産業技術研究所さんのことを書いておきます。
所在地
産技研さんは、京都リサーチパーク(KRP)という施設群の中にあります。
KRPには賃貸オフィスや研究開発スペースがあり、たくさんの企業が入居しています。
最寄りの鉄道駅は、JR嵯峨野線「丹波口駅」になります。
京都駅から2駅ですね。
8つのチームと研究分野
先述のとおり、産技研さんは「物づくりをしてる中小企業の支援事業」をしてます。
で、8つのチームがそれぞれ企業や学府と連携して技術開発してるんです。
産技研の8つのチーム
- 高分子系チーム
- 金属系チーム
- 窯業系チーム
- 製織システムチーム
- バイオ系チーム
- 表面処理チーム
- デザインチーム
- 色染化学チーム
いかにも京都らしいチーム編成?
そんな気がしません?
それぞれの研究分野も載せておきますね。
高分子系 | 複合材料、ポリマーフレンド、界面設計制御、微細精密発泡、漆改質技術、酵素反応型塗料など |
---|---|
金属系 | 金属材料試験、評価技術、微小分析技術、化学分析、材料科学、合金作製技術など |
窯業系 | 陶磁器釉薬、素地、焼成、陶磁器製造技術、粉末成型技術、セラミックス製造技術など |
製織システム | 製織紋織技術、製織準備関連技術、物性評価技術、コンピュータ関連技術など |
バイオ系 | 酒造技術、酵母育種技術、バイオ分析技術、バイオ計測技術など |
表面処理 | 電気めっき技術、電鋳技術、微細加工技術、表面処理技術、表面分析、表面形態評価など |
デザイン | デザイン技術、デジタル技術、製品開発手法、伝統染織、色彩など |
色染化学 | 染色加工、機能加工、繊細加工材料、繊細系化学分析など |
どの伝統技術も、産技研さんの持つ先端技術と二人三脚ですね。
全チームが協力したら、ロケットとか飛ばせそう。
で、今回のバイオ系チームの見学前に、他チームのお仕事も紹介していただきました。
具体例を見るとわかりやすかったので、いくつか載せておきます。
まず、シックなエントランスで金色の異彩を放つ「風神雷神図」から。
これは大型極薄陶板に描かれていて、セラミックスや陶磁器の先端技術が活かされてます。
ランニングシューズのミッドソールにも、産技研さんの技術が。
高分子系チーム開発の、軽くて丈夫なセルロースファイバーが使われてるそうです。
つづいて、プリンターで染色した「樹花鳥獣図屏風」の壁掛け。
製織システムチームが開発した、デジタル捺染システムが使われてます。
何気にすごかったのが、エレベーターの扉。
漆塗りに蒔絵(まきえ)がほどこされてました。
漆は紫外線や雨で分解され光沢がなくなり、やがてハゲます。
この漆は高耐久性で、屋外でも使えるそうです。
漆塗りにしたあと、エレベーターに物をぶつける人がいなくなったそうです。笑
ということで、産技研さんへ行くとこういう展示物が見られます。
こういう先端技術が京都の伝統技術に溶け込んでいってるのかと思うと、なんかすごい。
産技研さん、なくてはならない存在ですね。
次はどんな京都独自酵母が開発されるのか、めっちゃ楽しみ。
まとめ
まいまい京都さんのツアーで、京都産業技術研究所へ行ってきました。
京都独自酵母の開発現場を見学したり、その酵母で造ったお酒のきき酒ができました。
京都独自酵母は、ある種の香気成分や酸を高生成するように開発されてます。
その流れで「カプロン酸エチル」と「酢酸イソアミル」の香りを嗅ぐことができました。
京の琴、京の華、京の咲、京の珀。
近々、4つの酵母で造られた日本酒をならべて飲み比べしてみようと思います。
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